民主党政権と改憲の行方-九条の会の新しい課題を探る

 総選挙の結果には3つの特徴がある。(1)反構造改革、反改憲の声が自公政権を押し流し、初めて政権を変えた。(2)しかし、構造改革、改憲に反対した社民党や共産党には行かなかった。(3)「民主党+自民党」の得票率は何も変わっておらず、保守二大政党制が固定化した。もし、民主党が失敗するとまた自民党に戻るかもしれない。今は反構造改革、反改憲の新しい政治の大きな第1歩のところにいる。第2歩に進むか、戻るかは今後の私たちの運動に関わっている。

 民主党を勝たせた最大の力は反構造改革、反改憲の声が民主党に集中したことだ。しかし、これだけなら、ここまで大勝はしなかった。もうひとつの力は大都市の、構造改革を進めると自分たちの暮らしが良くなると考える大企業のエリートサラリーマンや上層部の人たちが、自民党では構造改革が進まないと考えたからだ。左に行こうという声と、右に行こうという声が合わさって民主党をこれだけ勝たせたのではないか。大都市では03年に既に民主党の得票率が自民党を上回っている。この時の民主党は構造改革を自民党と競い合っていた。自民党は地方の利益誘導型政治で、大企業の税金を安くするために、財政を縮減して構造改革をやることができるのは大都市に基盤をおいた民主党だと言っていた。構造改革を期待して民主党に入れている人がかなりいる。05年の小泉選挙では自民党に浮気をしたが、安倍、麻生政権でまた民主党に戻った。

 反構造改革、反改憲の声が何故民主党に集中したのか。3つの原因がある。1つは、日本で構造改革の悲惨な矛盾が爆発し、反構造改革の運動が始めて日本全国に広がった。餓死とか自殺とか、ヨーロッパではないことが起った。何故日本で欧米では起らない矛盾が爆発したかというと、日本は福祉国家の政治ではなかった。労働組合も構造改革に協力し、ヨーロッパのように抵抗しなかったので、すいすい行った。一気に大企業の大儲けの体制が出来上がるとともに、悲惨な状況も出来上がった。これが自公政権を追い詰めた第1の理由だ。2つ目に、日本で始めて反構造改革の大衆運動が起こった。日比谷の「年越し派遣村」は日本に貧困がないというのはうそだということを示した。今までの運動を超えた、「九条の会」に匹敵するような反貧困の新しい大衆運動だった。その特徴は、個人がイニシアティブを取り、労働組合と個人の新しい共同が生れたことだ。

 反改憲の運動でも大きな新しい運動が起こった。06年に安倍首相が任期中の改憲を主張した背景は2つあった。1つは、あの時、改憲の世論が賛成の方向に変わり、改憲して自衛隊を海外に出さないと世界の安全は守れないとい声が多数を占めたこと。2つ目は、民主党が改憲に賛成だということ。自公だけでは3分の2に足りない。この2つを前提にして、安倍政権は改憲に踏み込んだ。ところが、「九条の会」を中心とした大きな改憲反対の運動がこの2つの前提を壊した。04年4月の読売の世論調査では賛成は65%、反対は22.7%だった。3分の2が改憲に賛成しているとして踏み込んだが、「九条の会」が1年間に2千できて、全国津々浦々に広がり、それに応じて世論が大きく変わっていった。マスコミは報道しなかったが、「九条の会」が世論を変えた。ついに、08年4月には改憲賛成42.5%、反対43.1%と逆転してしまい、これでは改憲できないという状況が生れた。これに合わせて改憲賛成の民主党が徐々に後退し、改憲手続法にも最後には反対にまわった。これで2つの前提が壊れてしまい、改憲は出来なくなった。

 世論を変えた「九条の会」はどのような特徴を持っているか。1つは、「革新」を超えて、9条改憲に反対する人はみんな手をつなごうという運動である。2つ目は、戦後の社会運動の中で初めて中高年の人が主力になって運動を起こし、この戦争をしない日本を守るんだということで立ち上がっている。これは新しい広がりをもっている。3つ目は、個人のイニシアティブで、誰でも入れる敷居の低い会を作ったということが、また世論を変えていった。

 反構造改革、反改憲の声が自民党を追い詰めたのだが、それなら共産党、社民党が増えるはずだが、民主党に集中した。それは民主党が変わったからだ。06年までは構造改革を自民党と競い合う政党であったが、07年に「生活者の党」を言い、福祉を打ち出し、これが国民の支持を得た。民主党は、共産党や社民党が主張しなければ、例えば、後期高齢者医療制度の廃止などは言わない。それが皮肉にも民主党を大勝させた原因になった。でも、反構造改革、反改憲の旗を掲げた政党の存在は非常に大きかった。しかし、大都市で民主党に構造改革を進めてほしいと考える人も民主党を支えており、それが民主党混乱の要因になっている。さらに、財界、アメリカは民主党が勝つと決まった段階から民主党を応援し始めた。民主党を現実的な政党に変えるため、日米同盟維持、構造改革維持の圧力を一斉にかけてきた。

 今後、民主党政権はどうなるのか。民主党は一枚岩ではなく、立脚点が3つに分かれている。「頭」の部分は党の執行部、悩みながら構造改革や日米同盟を実現しなければならないグループ、民主党政権が作られた力を一番知っている人たちで、悩む人たち。「胴体」の部分は小沢氏を中心とする部分。「頭」の深刻な悩みを全く受付けない。利益誘導型政治を自民党から民主党に代えるというだけ。「手足」の部分は07年頃から運動団体と接触し、マニフェストを具体化して、国会で構造改革を追及し人気を博すようになったが、今一番元気がない。党内で勢力を持っていないので、他の部分から圧力を加えられている。右に行こうとする「頭」、後に行こうとする「胴体」、左に行こうとする「手足」がせめぎあっている。しかし、自公政権時代とは違う。自公政権時代は福祉の実現や日米同盟に打撃を与えようとすると、自公政権を倒さねばならなかった。今の民主党は私たちが大きな力を発揮すると「手足」や「頭」を頑張らせて、前進させることができる。この3つの部分に関しては、安保と憲法の問題ではもっと厳しい状態にある。「頭」と「胴体」は日米軍事同盟や改憲問題では一致している。だから、もっと大きな運動をしないとこの状況を覆すことは難しい。では、この問題ではみんな一致してしまっているかというと、そうではない。運動の力によって大きく事態を変える可能性はある。

 改憲はどうなるのか。民主党政権は多くの国民の圧力の下で登場しているだけに、明文改憲、改憲手続法の問題では、そう簡単に実現できない。「九条の会」が社会の中で活発に訴えている限り改憲を阻止する可能性が生れてきた。何故明文改憲を阻む可能性が出てきたのかというと、鳩山首相が改憲反対の声を受けていることを自覚しており、彼は持論を唱えることができない。そのような力を私たちが作ってきた。

 改憲の動きは私たちによって止められている。しかし、アメリカの圧力は非常に強くなっている。そこで、鳩山首相たちが生きる道は解釈改憲だ。私たちの運動がよほど強く解釈改憲を止めない限り、この方向がはっきり出ている。今、私たちは新しい情勢を第2歩にもっていくのか、解釈改憲を許すような方向に退歩させてしまうのかというところにいる。民主党は運動次第でその方向を決めるという状況になっている。私たちは大きな可能性と責任を担っている。これは私たちの運動が作り上げた新しい事態だ。

 3つの新しい課題を提起したい。1つは、解釈改憲の動きに機敏に対処する。十分に学習することが必要。2つ目に、解釈改憲実現を狙う国会の非民主的な改変を許さない。内閣法制局長官の答弁禁止、衆院比例定数80削減を阻むために立ち上がる。3つ目に、憲法9条を日本の中に実現するために「九条の会」がさらに前進し、9条を生かす活動をすることで日本から改憲を一掃する、そういう新しい力を作っていく必要がある。「九条の会」が近畿ブロック交流集会を機に新しい第2歩を踏み出すために、いろんな工夫と新しい試みをする決意を一緒にしたいと思う。

⇒ 情報資料のPDF版ダウンロード

講演要旨の作成・提供 「九条の会・わかやま」事務局・南本勲さん